大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)26号 決定

抗告人 富重産業株式会社 外二名

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

本件各抗告の趣旨竝びにその理由は、別紙書面記載のとおりである。

一、昭和三六年(ラ)第一号抗告人両名代理人菅野虎雄の抗告理由について。

論旨は、本件不動産の所有者である富重産業株式会社は昭和三三年一一月一八日破産宣告を受けたのであるが、本件不動産に対し昭和三五年一二月二二日施行された競売期日の通知は勿論、競売手続開始決定の通知も、債務者であり所有者である抗告人富重産業株式会社に対してはなされておらず、又保証債務者である抗告人富重清市個人に対しても競売期日の通知がなされていない。そして本件不動産に関しては、昭和三一年中同一債権について競売申立がなされたことがあり(原裁判所昭和三一年(ケ)第四一号)、抗告人において債権額を争つた結果、債権者において同競売申立を取下げた事実のあること、その他債務者たる抗告人が、公正取引委員会福岡地方事務所に私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第二条第七項第五号に該当する事実ありとして、同法第四五条による活動開始を求めていることからして、債務者である抗告人が競売手続の開始竝びに競売期日を知つていたら異議申立その他の措置に出でた筈であつて、このことは競売法第二七条第三二条、民事訴訟法第六七二条第一号第六七四条第一項の競落不許事由にあたるものといわねばならないのみならず、利害関係人である保証人に通知のなされなかつた点についても同様であるというのである。

しかし、破産宣告後においては破産財団の管理及び処分権は、破産管財人に専属することとなるため、競売法第二七条にいう利害関係人として競売手続に関与し得るのは、只破産管財人のみがこれを為し得るのであつて、破産者は包含されないものといわねばならない(昭和四年八月二一日大審院決定・集八巻一〇号七四七頁参照)ところ、本件記録によれば、昭和三三年一一月二八日競売手続開始決定がなされるや、破産管財人森安五郎に対し右開始決定正本を交付送達していることが明らかで、この点に関し何等の過誤も発見されないのみならず、又被担保債務者以外の保証人もしくは連帯債務者は、当然には競売法第二七条第三項第二号の債務者には包含されないのであるから(昭和一二年一一月六日大審院決定・集一六巻二二号一五八五頁参照)、保証債務者富重清市に対し競売法第二七条第二項による通知がなされなかつたからといつて、これを違法視することはできない。

従つて本論旨は、いずれも採用の限りでない。

二、同年(ラ)第二六号抗告人破産管財人森安五郎の抗告理由について。

所論は要するに、競売法第二七条第一項、第三二条、民事訴訟法第六七二条第四号、第六五八条による競売期日の公告に関し、右六五八条第一号の不動産の表示、同第二号の租税その他の公課、及び同第三号の賃貸借に関する適法な公告要件が充たされていないとして論難するのである。

本件記録の昭和三五年一二月五日なされた公告によれば、(一)、不動産の表示として、大牟田市不知火町一丁目七八番地の二、宅地二三三坪一合五勺、区劃整理により換地々積一七六坪二勺、(二)、租税その他の公課として、昭和三三年固定資産税金七六二、〇〇八円、(三)、賃貸借有として、(1) 一〇坪、月四、三五〇円、(2) 六坪、月二、七〇〇円、(3) 六坪、月二、五〇〇円、(4) 六坪、月一、六〇〇円、(5) 一〇坪、月一、二五〇円、(6) 三坪、月一、五〇〇円、(7) 四坪、月一、六〇〇円、(8) 四坪、月一、五〇〇円、(9) 八坪、月六、〇〇〇円、(10)一六坪、月四、〇〇〇円の各記載がなされていることが認められるので、右各記載が、民事訴訟法第六七二条第四号所定の異議事由に該当するか否かについて判断する。

(一)  不動産の表示について。

本件宅地(大牟田市不知火町一丁日七八番地の二、宅地二三三坪一合八勺)が、土地区劃整理事業のため(1) 不知火町一丁目(大牟田駅前)において仮換地一三四坪七合一勺と、(2) 同市大正町新銀座街(西一工区内)において仮換地四一坪三合一勺の二箇の仮換地指定(いわゆる飛換地指定)がなされていること、まことに所論のとおりである(疎甲第一、二号証)。しかし一方、競売期日の公告に不動産の表示を要求する所以は、競売不動産の同一性認識に資すると共に、競買希望者一般に対し同不動産の実質的価値を了知させ、競買申出に過誤のないことを期するにあるところ、本件宅地の同一性認識竝びに売買申出でに際しての価値判断の資料としての機能は、前掲公告の記載によつてその目的が達成されているものといわねばならないから、所論のように、飛換地の指定について具体的にその位置竝びに坪数を明示していないとしても、これを以て適法な不動産の表示を欠くものということはできない。

(二)  租税その他の公課表示について。

前示公告に昭和三三年固定資産税金七六二、〇〇八円の記載がなされている点、まことに明確を欠き所論のような誤解を招く虞れがないでもない。しかし本件記録によれば、本件宅地に関しては大牟田市長から昭和三一年度乃至昭和三三年度固定資産税を含む租税債権合計一九九、一〇〇円の交付要求があるほか、福岡県大牟田財務事務所長及び大牟田税務署長の各交付要求額を合せて総額約五六万三、九〇二円に達する租税公課の負担が公告当時存在していたことが認められ、(公告に七六万二、〇〇八円とした数額の根拠は、記録上明瞭でない。)本件公課の表示額との間約一九万八、〇〇〇円余の差額があるけれども、本件競落価格三、〇〇一、一〇〇円(最低競売価額二、七四六、五〇〇円)に不当な影響を及ぼした事跡は、記録を精査しても発見することができない。従つてこの点に関する論旨も採用できない。

(三)  賃貸借の表示について。

本件宅地上には疎甲第六乃至第二〇号証(いずれも建物登記簿抄本)にある各建物が存在し、右建物所有者がその敷地を賃貸していること、疎第三号証の一乃至九〇賃料が、破産管財人によつて徴収されていることが認められる。しかし右疎明による賃貸借の存在竝びに賃料と、前示公告に表示された賃貸借の存在竝びに賃料とを比較検討してみるのに、大同小異であつて、右公告の表示が著るしく本件宅地の現況にそわないものということはできない。凡そ公告に賃貸借の表示を必要とする所以は、抵当権者竝びに競落人において対抗を受くべき賃貸借の存在によつて不測の損害を受けるのを防止するにあると解されるから、現実に存在する賃貸借を逐一詳細に公告することは要求されていないのであつて、競買希望者一般に対し競売不動産に関する実質的価値判断の一資料を提供し右希望者が自己の責任において現地調査の上競買をなすか否かを決定し得る機会を与えることを以て満足すべきである。そうだとすれば、本件公告の記載に、記録中の賃貸借調査報告書(記録三〇丁)及び前示疎明資料による賃貸借との間に多少の不合致があつても、これがため競買申出人に対し不測の損害を及ぼし、もしくは、抵当権者竝びに抵当不動産所有者に対し不利な影響を及ぼす虞れのない限り、賃貸借に関する公告の表示としては適法なものといわねばならないのであつて、これを以て民事訴訟法第六七二条第四号所定の異議事由に該当するものとすることはできない。

従つて本論旨も亦採用の限りでない。

三、なお本件宅地のうち、五四坪八合七勺の仮換地大牟田市大正町一丁目一番地宅地四一坪三合一勺に関しては、原裁判所昭和三六年(ヨ)第七号不動産競売手続停止仮処分申請事件による競売手続停止の仮処分決定が昭和三六年二月二日原裁判所においてなされているけれども(記録第一二一丁以下参照)、競売法第三二条第二項民事訴訟法第六七三条により右仮処分決定は、抗告人等に対しては適法な抗告事由とならないことが明らかであり、その他記録を精査しても原決定を違法ならしめる事由は、何等発見できない。

そこで本件抗告は、いずれも理由がないので、同法第四一四条第三八四条によつてこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 中園原一 厚地政信 原田一隆)

抗告理由書

さきに、福岡地方裁判所大牟田支部昭和三三年(ケ)第九九号不動産競売事件につき昭和三十五年十二月二十六日言渡された競落許可法定に対し、即時抗告の申立をいたしましたが、その抗告理由は左の通りであります。

第一点本件競売及び競落期日の公告には、不動産の表示として「大牟田市不知火町一丁目七拾八番地の弐、宅地弐百参拾参坪壱合八勺。区画整理により換地々積百七拾六坪弐勺」と記載してある。

ところが、大牟田市が施行中の土地区画整理事業において、本件不知火町一丁目七十八番地の二の宅地に対しては、(1) 不知火町一丁目(大牟田駅前)において仮換地百三十四坪七合一勺、及び、(2) 同市大正町新銀座街(西一工区内)において仮換地四十一坪三合一勺、の二ケの仮換地指定(いわゆる飛換地指定)がなされている。

(この点は、甲第一、第二号証の証明書により立証)

かように仮換地が全く離れた箇所に分割して指定されているときは、それぞれの仮換地の位置と坪数とを明確に公告に記載しなければ、競売及び競落期日の公告における不動産の表示としては十分でなく、その公告としての意義を為さないに拘らず、本件公告は前記の如き漠然たる記載を為して居るに過ぎず、これでは競買希望者等を誤らしめる因であり、競売公告における不動産の表示としては不十分不適法のものと思料する。

第二点本件競売及び競落期日の公告には、「賃貸借有り」として、「拾坪月四千参百五拾円也」外九口の賃貸坪数と賃料とを掲記している。而して、この記載は、執行吏の不動産賃貸借取調報告書に記載(富重産業代表取締役の供述書を引用)の甲斐章外十名の賃貸借を指すものと思われるが、報告書には十一口の賃貸借が記載してあるのに、公告には十口のみ記載(千五百円の一口記載洩れ)してある。また、(4) の山口サツキ分は金千六百五十円であるのに、公告には金千六百円とし、(11)の宮川光義分は金四千百円であるのに、公告には金四千円としてあり、両者に相違がある。のみならず、その他の者の賃料も事実と相違して居り、殊に、右十一名以外にもなお、賃借人があることは、甲第三号証の一乃至九、第四号証の一、二によつて、明かである。

右の如く、本件競売公告には、事実に反する賃貸借を記載したのみならず、競売法第二十九条によつて準用せらるる民訴法第六百五十八条第三号所定の期限借賃の前払等に関する何等の記載もないのであるから、不適法な記載というの外はない。

もし夫れ、抵当権者ひいて競落人に対抗し得ない賃貸借は公告に記載すべきではないものとすれば、本件土地の賃貸借は全然これを公告に掲記すべきではないのであつて、それにも拘らずこれを記載したのは、違法である。従つて、いずれの点からしても、本件競売公告の記載は違法である。

ちなみに、既に前記の通り、本件土地に対しては、新銀座街(西一工区内)に、四十一坪三合一勺の飛換地が指定されて居りこの仮換地は事実上は、富重産業株式会社から既に他人に売却されて居る(従つて、この仮換地部分については借地関係はない)が、ただその移転登記手続が未だ為されていない。それ故、もし本件競落が許可されるときは、右新銀座街における仮換地の買主と、競落人との間に相当複雑困難な事態・紛争が発生する恐れがあるのである。

第三点なお、本件競売公告においては、租税その他の公課欄に「固定資産税金七十六万二千円」と記載してある。これは、記録中の公課証明書における記載に基くものと思われるが、この税金額は誤つている。即ち、固定資産税の課税標準価額が金五百四十四万円余の不動産(公課証明書参照)に対して金七十六万円余の税金(一割二分余にあたる)が課せられる筈がない。恐らく七万円余の税金が正当と思われる。

果して然らば、本件競売の公告は、右の点においても違法である。

以上いずれの点からしても、本件の競落は許可せらるべきものではなく、原決定を取消し競落不許可の御裁判を求める次第である。

抗告状

抗告理由

(一) 福岡地方裁判所大牟田支部は相手方株式会社九州相互銀行の申立により別紙記載の不動産に対し抵当権に基く競売手続を開始し昭和三十五年十二月二十六日小川力平に対し競落許可決定を与えられました

(二) 然る処同競売期日は昭和三十五年十二月二十二日施行せられ居るのに債務者にして所有者なる抗告人には其通知がありて居ませぬ競売手続開始決定さえ送達ありて居ませぬ抗告人は競売開始の事実も知らず昭和三十五年十二月二十二日が競売期日と云うことも知らずに居ました

処が競売が実施せられたる後注意を為しくれたる人あり競売の事実及び競落人も定まりたることを知らしてくれましたから初めてこれを知りました

(三) 競売法第二十七条には競売期日は利害関係人に通知することを要する旨を規定し債務者及び所有者を利害関係人とすることを定めて居ます。

(四) 尤も抗告人会社は昭和三十三年十一月十八日福岡地方裁判所大牟田支部より破産の宣告を受けて居ます

依て破産者は同通知を受くべき適格者にあらずとすべき観ないでもないかも知れませぬ

(五) 破産者は破産法第七条により破産財団の管理及び処分権を失うと雖も破産財団の所有権を失うものではありませぬ

又権利能力行為能力訴訟能力を失うものでもありませぬ

例令其通知を受けて為す行為が管理行為に属するとするも絶対無効にあらずして只之を以て破産債務者に対抗することを得ざるに過ぎざることは破産法第五十三条の規定する処であります

(六) 破産者たる個人は財団の管理処分以外に於て尚処理すべき種々の事柄を有し且自由に之を処理することを得るものであります其一例は破産債権調査の場合にあらわれて居ます

破産法第二百三十二条には破産者は債権調査の期日に出頭して意見を述ぶることを要すと規定して居ます

債権調査の結果異議あるや否やは破産管財人主として述ぶべしと雖も破産者としても破産管財人とは別個の立場より個人として異議を述べ得ることは同法第二百四十一条の規定する処であります而して異議ある債権に付ては其債権者は異議者に対し訴を以て其債権の確定を求むることを要し(同法二四四条)破産者が異議者の一人なるときは破産者に対しても其確定の訴を提起せねば確定せざることは同条第二項の規定する処であり破産者は此場合同訴訟の被告として相手とならねばならぬ次第で此訴訟は破産財団に全然関係ないものではないのであります

此点に付ては参考判例として左記大審院の判例があります

(七) 本件の宅地は人口二十万余を抱擁する大牟田市の玄関たる大牟田駅の前の四角の角地で一坪の価額二十万円以上の価値を有し区画整理の結果幾分坪数減少せりと雖も少くとも優に二千万円以上の価額を有します

相手方銀行は同一抵当権を以て同一不動産に対し昭和三十一年中福岡地方裁判所大牟田支部に競売を申立て同年(ケ)第四一号を以て競売を開始せられ最低競売価額を定めむがため価額の鑑定を命ぜられ同年四月十一日鑑定人飯田環は之を七百四十万円と鑑定して居ますが抗告人たる債務者より其債権額を争いたるを以て相手方銀行は同競売申立を取下げました

(八) 抗告人は昭和二十八年八月一日相手方銀行に対し本件不動産に二百五十万円の根抵当権設定を為したるを奇貨とし相手方銀行は其弱点に乗じ両建貸付と称し定期預金を為したる如くして之を貸付けたることとし其利鞘を取る方法を行い抗告人は昭和二十八年十一月二十日の一百万円第一回とし昭和三十一年三月二十五日の四百万円を最後とし七回に合計金一千九百万円を定期預金を為したることとし之を借受けたることとし相互掛金契約を締結せしめられ其掛金を以て利払をさせられる仕組にして昭和三十年三月三十一日現在に於て其掛込金合計四百八十七万五千円に達し本件抵当債務は全く入金とならざるによりこれ私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第二条第七項第五号第十九条に該当するものとし昭和三十三年七月十五日訴願書と題し公正取引委員会に同法第四十五条により活動開始の手続をいたし爾来同委員会福岡地方事務所に於て審判手続を経られ昭和三十五年十二月二十八日も同手続を続行せられ相手方銀行は同事実を認め近く審決の運びとなる段階に至りて居ます

(九) 以上の事由は競売法第三十二条民事訴訟法第六百七十二条第一号第六百七十四条第一項によりても本件競落は許されざるものであります

(一〇) 依て本件競売には抗告人は重大関心を持ち居り独り抗告人個人の利益のみならず以上の事由が認められるに於ては破産財団も増加し破産債権者の利益も莫大である処債務者所有者にして破産者なる抗告人に全く知らしめずして競売手続を遂行するは不当と信じますから茲に抗告をいたします

疏明方法

(イ) 福岡地方裁判所大牟田支部より昭和三十一年(ケ)第四一号競売事件記録の取寄

(ロ) 公正取引委員会福岡地方事務所より

抗告人訴願独禁法違反審判手続記録の取寄

参考判例

破産宣告ノ後破産者ノ為シタル売買契約ハ縦令宣告当時ノ破産財団ニ属スルモノヲ以テ其目的ト為サ、ルモ該財団ニ何等ノ影響ヲ及ホサスト謂フヲ得ス

明治三十六年十月十日大審院第一民事部判決

大審院判決抄録第十八巻第三五六二頁

第二抗告理由

(一一) 抗告人富重清市個人は相手方(債権者)株式会社九州相互銀行が本件競売申立を為し居る債権元本極度額二百五十万円に付債務者富重産業株式会社のため個人保証をいたして居ます

同抗告人は破産者ではありませぬから破産法の問題には触れざる競売法第二十七条の債務者であり利害関係人であり競売期日の通知を為さねばならぬものであるのに同抗告人にも通知がありて居ませぬ

尤も本件競売申立には同抗告人は抵当権に直接関係なきため相手とは為しあらざれども抵当不動産が何程に売却せらるるかは重大関係を有して居ます競売期日及び最低競売価額が分らずしては同競売に何等の対策を講ずることは出来ませぬ

債権者も抗告人富重清市個人が保証を為せることは知りて居ますそれを知りながら同抗告人に知らしめずして競売を遂行するとは当を得ませぬ

此点に於て本件競落許可決定は違法たるを免かれませぬ当然取消さるべきものであります

不動産の表示

大牟田市不知火町一丁目七十八番地の二

一宅地二百三十三坪一合八勺

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例